六本木の中心にある、静かな水の庭
毛利庭園は、六本木ヒルズの森タワーとテレビ朝日本社のあいだに広がる日本庭園です。周囲にはショップ、レストラン、美術館、オフィスが集まりますが、池のほとりに立つと街の速度が少しだけ落ちます。
庭園の中心にあるのは毛利池。水面のまわりには滝、渓流、低く刈り込まれた植栽、桜やイチョウなどの樹木が配され、短い時間でも回遊式庭園のように歩く楽しさがあります。高層建築に囲まれた場所でありながら、水音と木陰によって、都市の中に別の時間が開かれるような庭です。
毛利家の屋敷跡から、現代の庭園へ
この土地の記憶は江戸時代まで遡ります。かつてこの周辺には、長府藩主・毛利家の上屋敷があり、その庭園として水と緑の景観が育まれました。明治以降は所有者が変わり、昭和期にはニッカウヰスキー東京工場、のちにテレビ朝日の敷地となります。池は長く「ニッカ池」と呼ばれ、地域の風景として親しまれていました。
六本木六丁目地区の再開発では、かつての池の遺構を地中に保存し、その上に現在の毛利庭園が整備されました。ここで面白いのは、新しい都市開発でありながら、土地の記憶を消さない設計になっていることです。古い池をそのまま見せるのではなく、地下に眠らせ、現在の水景として受け継ぐ。毛利庭園の静けさは、この「見えない継承」から生まれているのかもしれません。
古い木と、現代アートが同じ水面に映る
庭園では、開発前からこの地にあったソメイヨシノ、イチョウ、エノキ、クスノキなどの樹木が残され、一部の石材も再利用されています。春は桜とツツジ、初夏はスイレンやハナショウブ、梅雨にはアジサイ、秋には紅葉や実ものが景色を変えていきます。
毛利池には、ジャン=ミシェル・オトニエルによるパブリックアート《Kin no Kokoro》も置かれています。金色の連珠が水面に映り、歩く角度によってハートにもメビウスの輪にも見える作品です。歴史ある庭園に現代アートが置かれていることは、六本木らしい違和感であり、同時にこの庭の魅力でもあります。
NIWAの視点
毛利庭園は、広大な名園というよりも、都市の密度の中で「余白」をつくる庭です。池を中心に視線を落とし、滝の音で街のノイズをやわらげ、植栽の季節変化で時間を感じさせる。六本木ヒルズという巨大な都市装置の中に、江戸から続く水の記憶をどう残すか。その答えのひとつが、この小さな庭にあります。
撮影するなら、朝のやわらかい光、水面に映る建築、春の桜、秋の紅葉、夜のライトアップが狙い目です。庭そのものだけでなく、背後に立つガラスの建築まで入れると、毛利庭園らしい「都市と庭の対比」が出やすくなります。
